2013/05/25

「国民総背番号時代」、「成りすまし犯罪大国」時代へ突入

国民総背番号制を導入する共通番号法案は、5月9日の衆院本会議で可決され、参院へ送られ、まともな委員会審査もせず、24日に参院本会議で可決成立した。

わが国は、これで、「国民総背番号時代」、「成りすまし犯罪大国」へまっしぐらということであろう。

IT(情報通信技術)全盛の今日、パスワードを頻繁に変えることで安全を確保するのが常識だ。こうした時代に生涯不変の見える共通番号/マイナンバー(私の背番号)を一生涯にわたり国民に汎用させるのは今世紀最大の愚策である。明らかに時代遅れでもある。

にもかかわらず、政治はまったく無頓着である。衆院内閣委員会の議論を聞いていれば、体たらくな時間稼ぎの議論には本当に驚かされる。参院では委員会審査はほとんどかたちだけ、本会議で採決、成立した。

この危ない、人権を蝕む、成りすまし犯罪ツールにもなりうる共通番号の生みの親は、民主党である。この政党は、住基ネットではあれだけ反対したのにもかかわらず大きく変節し、公約違反の消費税増税までやってのけた。改憲勢力を勢いづかせたことも含め、不信の塊のような政党で、その罪は重い。

読売新聞など翼賛マスコミも「行政手続が便利、簡単になる」程度の紹介に徹し、問題の本質には触れない。「人権という歌を忘れたカナリア」同然である。財界のPR紙である日経新聞(5月10日朝刊)は、共通番号導入で「関連市場は3兆円」という見出しで、監視社会ツールの導入で「IT利権」が高笑いの状況を報告。ある意味で素直だ。

電子政府構想のもと、行政事務やそれに関連する民間の事務は、現実空間(real space)のみならず電脳空間(cyber space)にも広がっている。雇用その他各種サービス給付を受ける際に共通番号を所轄機関や企業などに提示したとする。コンピュータに蓄積された「共通番号付き個人情報(特定個人情報)」は、ハッカー攻撃で常に盗み出される危険にさらされる。

今日、企業や機関、個人から情報を盗み出すハッカー技術と、それを探知・防止する技術はイタチごっこが続いている。ハッカー対策から、電子取引では、頻繁にパスワードの変更が求められる。

生涯不変のマスターキーのような共通番号は一度盗み出されれば、成りすまし犯罪には極めて脆弱である。共通番号を使うことを強いる政府の構想は、原発以上に「負の遺産」となるはずだ。

パスワードを頻繁に変える時代の要請を直視しようとしない政治姿勢は、大きな不幸をうむことにつながる。安全神話が説かれていた原発は、いまや国民のマインドコントロールが解け、想定外ではすまされない実情にある。ましてや共通番号にいたっては、導入する前からその欠陥が明らかなのである。本来リコールすべき構想であるのに、これをすすめるのは愚策としかいいようがない。

税と社会保障の情報を紐づけ(データ照合/情報連携)したいというのであれば、成りすまし犯罪ツールになる共通番号を導入しなくともできる。今ある分野別番号を紐づけすればそれで済む。

◆アメリカでは、共通番号を止めて分野別(個別)番号に転換の方向

アメリカでは1930年代から久しく、フラット・モデル(方式)の共通番号を採用してきた。このモデル(方式)のもと、個人の共通番号である社会保障番号(SSN=Social Security Number)は見える化(公開/オープンに)して官民で幅広く使われてきた。

そのアメリカで、共通番号として使ってきた社会保障番号(SSN)が、成りすまし犯罪ツールと化して、極めて深刻な事態に陥っている。

アメリカ連邦司法省の統計によると、2006年〜2008年ベースで、成りすまし犯罪の犠牲者が1千170万件(16歳以上の前人口の約5%)にのぼっている。

また、同時期の成りすまし犯罪による損害額は、約173億ドル【1ドル=100円換算で、1兆7,300億円(年5000億円超)】にのぼっている。こうした成りすまし犯罪の最大の原因が、フラット・モデル【一つの番号をオープンにして多目的利用/汎用】する共通番号「社会保障番号(SSN)」にある。

◎米国防総省は共通番号を止め独自の番号を採用

このように、アメリカでは、見える共通番号(SSN=社会保障番号)を悪用した成りすまし犯罪で手がつけられなくなっている。昨年(2012年に)、ついに国防総省(DOD=Department of Defense)は、国家安全保障対策から、共通番号(SSN)から離脱し、軍務にDOD分野に独自の番号(DOD番号)への一斉変更・転換利用に踏み切った。

◎米国税庁も一部分野別番号採用へ転換

また、2011年1月から、連邦課税庁/国税庁(IRS=Internal Revenue Service/内国歳入庁)も、成りすまし不正申告の被害を受けた個人納税者向けに「身元保護個人納税者番号(IP PIN=Identity Protection Personal Identification Number)」の発行を開始した。

◎高齢者医療保険(メディケア)でも分野別番号へ転換の方向

さらに、アメリカでは、「メディケア(Medicare)」という名の高齢者向けの公的医療保険制度を維持している。メディケア(高齢者医療)カードには、健康保険請求番号(HICN=Health Insurance Claim Number)が記載されており、HICNには、共通番号/社会保障番(SSN)が転用されている。このHICN/SSNが成りすまし犯罪のツールと化している。多くの高齢者が多発する成りすまし犯罪に巻き込まれ、深刻な社会問題となっている。

連邦議会下院は、2012年8月1日に、共通番号(HICN/SSN)を悪用した成りすまし犯罪に対処するねらいから、下院歳入委員会の社会保障小委員会(Social Security Subcommittee)と保健小委員会(Health Subcommittee)が共同で、「メディケア(高齢者医療)カードから共通番号(SSN)を削除することに関する合同公聴会」を開催した。今後、メディケア(高齢者医療)カードから共通番号(SSN)を削除し、分野別(個別)番号を採用する方向で検討をすすめている。

◆時代遅れの危ない共通番号の導入は要らない

こうした他国の実情を織り込んで、わが政府が提案するマイナンバー(私の背番号)構想を検証してみると、導入段階【限られた行政分野+関連民間分野】、3年度の第二段階【あらゆる行政分野+関連民間分野】、第三段階【民間の自由な利用)と広げて行けば行くほど、この番号は極めて危険で犯罪ツールと化すことは目に見えている。共通番号は、絶対に導入してはいけないことを教えてくれる。わが国は、世界の動きに完全に「逆行」している。

再度問う。フェース・ツウ・フェースの取引が減少しているIT(情報通信技術)全盛の今日、見える共通番号を幅広く使う仕組みは明らかに時代遅れだ。電子取引では、頻繁にパスワードの変更が求められる。同じ共通番号を一生涯にわたって使うことを強いる政府の構想は、「最初から不能不全を起こしている」と断じるほかない。

共通番号の悪用で成りすまし犯罪の多発に対処するために分野別限定番号に変換するとしても、官民にわたるシステム変換や利害関係者への周知・相談・教育などで膨大なコストや事務負担を強いられることが分かる。

アメリカの社会保障番号(SSN)が導入されたのは、1936年である。パソコンとインターネットを使ったサイバー取引などまったくなかった時代である。現実空間の取引だけの時代である。

ところが、今日は、現実空間の取引に加え、パソコンとインターネットを使ったサイバー取引網が縦横に走り、グローバルな広がりを見せるIT(情報通信技術)全盛の時代である。こうした時代にあっては、犯罪対策からパスワードはできるだけ頻繁に変えるように求められる。アメリカが共通番号から分野別の個別番号に転換している理由である。

にもかかわらず、わが国政府の計画では、生涯不変の目に見える共通番号(パスワード)を官民にわたり幅広く使おうとする。こうした構想は、もはや完全に時代遅れである。前世紀の発想であり、この時代にはそぐわない。成りすまし犯罪ツールをつくるに等しい。

まさに、アメリカの実情は、わが国の共通番号導入プランがアナクロニズムであることをまざまざと見せつけている。

◆IT利権、血税のムダ遣いの典型

住基ネットは、電子政府には必須のツールとか言って鳴り物入りで導入したものの、今や年金事務くらいにしか使い物にならないカネ喰い虫なのが現実の姿だ。こうした無用の国民監視ツールに加え、今度は、成りすまし犯罪ツールになるのが必須の危ない共通番号の導入だ。「政府の犯罪」につながるには目に見えている。

政産官学がスクラムを組んで、IT利権がらみの公共工事をすすめる愚策は止まらない。共通番号の段階的な拡大利用で犯罪が多発しても、逆に共通番号を廃止、分野別番号に変換するのも、血税を注ぐ巨大な公共事業につながりIT産業は潤う・・・・といった程度の認識なのであろう。

まさに、原発再稼働で事故が起きてもバックエンド(終息作業)も新たな公共事業で潤う、といった感覚なのかもしれない。だが、これでは、いくら増税しても、まさに、「ザルに水」である。危ない共通番号は絶対に要らない。自民、維新などはつける薬がないとしても、民主党も公明党の議員は頭を冷やそう。

高度情報社会に今日、IT(情報通信技術)を成長戦略に据えることに異論は少ないはずだ。だが、生涯不変の見える共通番号の導入はいただけない。犯罪ツールをつくるのに等しい。罰則を厳しくしても、成りすまし雇用など共通番号を使った犯罪を防ぎことは無理である。また、取扱を間違えばいつ犯罪者にされるかわからないような怖い番号など、企業の社会保障や源泉税実務の現場にもなじまない。

共通番号導入のようなムダな公共工事をしなくとも、今ある目に見える分野別の番号を効率化・整備して紐付けできる仕組みを構築することで十分である。安心、安全は、厳罰ではなく、システムの工夫で確保すべきである。IT利権、ムダな公共事業の典型である共通番号は絶対に要らない。

イギリスでは、2008年に当時の労働党政権が「国民IDカード制」を導入した。しかし2010年の政権交代で制度を廃止した。「国家は必要以上の国民の個人情報を収集しない。国民の人権侵害ツールは要らない」というのが廃止の理由である。

共通番号という時代錯誤で人権をむしばむ成りすまし犯罪ツールや個人ICカードの廃止、分野別番号の維持に向けて国民運動を強力に展開していかなければならない。

PIJ共通番号反対プロジェクト

2013年5月24日