2013/11/17

◆はじまった番号利用拡大のタテ割り密室検討〜やはり、生涯不変の見える危ない汎用パスワードの稼働はやめよう!

◆はじまった番号利用拡大のタテ割り密室検討

共通番号利用は、導入段階〔ファースト・フェイズ〕では、「社会保障&税分野等+これらの分野限定の民間利用」となる。具体的な利用のあり方は、これから検討に入る。税務への利用については、政府税制調査会は、11月8日に会合を持ち、共通番号の制度設計に携わっている内閣官房の社会保障改革担当室の向井治紀審議官を招き説明を受け、今後、税務利用の範囲を広げる検討に入った。

導入段階では、課税庁が共通番号で把握できるのは、納税状況や雇用主が従業者などに支払う給与などに限ることを想定している。したがって、個人の金融口座や不動産などの資産情報は対象外である。政府税調は、11月8日に会合で、神野直彦氏を座長に据えた「マイナンバー・ディスカッショングループ」(マイナンバーDG)を立ち上げ、「金融口座や不動産などの資産情報」の番号管理を含めた利用範囲の検討を行う方針を打ち出した(http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2013/__icsFiles/afieldfile/2013/11/05/25zen3kai.pdf)。

共通番号の利用範囲を細切れにし、税務、社会保障それぞれの分野でタテ割りのかたちで、それぞれの府省庁が自らの隠れ蓑機関(御用審議会)を使って利用範囲を検討するやり方は止めなければいけない。拡大利用プランの全体像が、国民/納税者にすこぶる見え難くなるからだ。検討後の会議録をネットで公表されても、国民/納税者には“誤った途をすすんでいてもそれを糾す”機会が保障されない。

共通番号の利用分野を切り刻み、役人が裏で仕切る政府税調が、共通番号を税務分野に限定した「納税者番号」にように考えて議論するのは危険である。まさに、役人が裏で仕切る御用審議会が、あたかも「特定秘密」にあたるかどうかを役人がささやいた筋書に従って追認、判定するに等しい状況になる、といっても過言ではない。

こうした審議会の委員を任じられた者は、偉くなったものと勘違いしてか、役所の権威をバックに役所の代弁をし、呼び水役を演じることが少なくない。共通番号の利用分野を広げれは税収が上がる程度の認識では困るわけで、企業(番号取扱事業者)サイドに発生する膨大なコンプライアンス・コストを捨象してはならない。コスト意識が欠如すると、まさに「外部不経済」と化す。自戒が求められている。

再度問う。共通番号は、税以外の社会保障分野などにも使う生涯不変の可視化された“汎用”“多目的利用”の番号である。また、現実空間取引に加え、電脳空間(サイバースペース)取引、電子取引が全盛の時代である。アナログの思考で、可視化して使う共通番号の利用分野を細切れにして、税務、社会保障、医療等々とそれぞれの分野で広げていけば広げるほど、結果として番号悪用した成りすまし犯罪リスクは高まるのは必至である。また、生涯不変の共通番号で紐付けされた特定個人情報の流出を防ぐために官民が負担するコストはおそろしいほど高くなるはずである。

金融機関や与信機関の取引情報を共通番号で紐付けすれば、行政庁が特定個人情報を利用しやすくなるという。このことは、裏返すと、ネットバンキングやネット取引など電子取引、サイバー空間取引が全盛の今日では、他人の共通番号を悪用し別人に成りすますのも容易になり、サイバー犯罪の温床になりかねないということだ。

アメリカの可視化して使われている「社会保障番号(SSN)」は、現実空間取引が全盛の時代に導入された。SSNは、その後汎用され、共通番号として使われるようになった。ところが、相手の顔が見えない電子取引、サイバー空間取引が全盛の今日にいたって、SSNの悪用が多発し、手が付けられなくなっている。こうしたアメリカの共通番号に悪用実態は、まさにわが国にとり反面教師になる。

政府税調のマイナンバーDGは、共通番号を納税者整理番号のような限定番号として扱う軽い気持ちで、近視眼的に利用範囲のなし崩し的な拡大を論じてはいけない。タテ割りのかたちでそれぞれの行政分野で、共通番号の利用を広げるほど、特定個人情報が流出した場合の被害の拡大が懸念されるからだ。パスワードを頻繁に変えて個人情報を守るサイバー空間取引が全盛、ハッカーがウジョウジョの時代に、一生涯変わらない見える化した共通番号を、できるだけ幅広く使わせようというのは大きな危険が伴う。人権面でも重い課題である。

それに、国民/納税者は、税引後の所得や富を自由に費消する権利がある。一般国民/納税者は、役所が令状もなしに、共通番号という監視ツールを使って自己の金融プライバシーを勝手に覗き見できる「デバガメ国家」構想の実現など望んでないはずだ。

個人情報の漏えいが毎日のようにマスメディアをにぎわし、パスワードを頻繁に変えて個人情報を守る時代に、一生涯変わらない見える化した共通番号を、できるだけ幅広く使わせようというのは、どう考えても時代遅れとしかいいようがない。政府は、原発再稼働と同様に、いくら危険があろうと、こうした愚策を実施するつもりらしい。しかし、時代に合った賢い仕組みを求めるべく、もう一度入口から検討しなおすべきである。

アメリカ国防総省(DOD)は、悪用に歯止めをかけるのが難しくなったことから、長い間使ってきたが、共通番号(社会保障番号/SSN)の利用を止めて、2011年6月に、同省独自の新たな11ケタの「国防総省本人確認番号(DOD ID number)」番号(分野別個別番号)の利用へ全面的に移行した。わが国も参考とすべきではないか。

やはり、生涯不変の見える危ない汎用パスワードの稼働はやめよう。

PIJ運営委員会