2015/06/07

年金情報大量流出問題の矮小化、危険な使われ方に要注意

民主、自公と歴代の政権は、国民総背番号制である共通番号制導入をめざしてきた。共通番号制で「個人番号」を通称で「マイナンバー(私の背番号)」と呼ぶ。マイナンバーは、公開して「民―民―官」間で、行政事務に加え、雇用、納税、医療・金融などに汎用される。もっと利用範囲を広げようと、改正法案まで出している。

個人番号/マイナンバーを使って国民のプライバシーのトータルに公有化/国家管理をする構想は、「すべての国民は、個人として尊重される。」と定める憲法13条とぶつかる。この構想を実施することは、憲法13条は実質、「すべての国民は、唯一無二の個人番号で生涯監視される。」との解釈改憲につながるともいえる。

PIJは、共通番号/マイナンバー制の危うさについて、かねてから繰り返し指摘してきた。日本年金機構の年金情報大量流出事件で、国民は「目からうろこ」が落ちる思いがした。基礎年金番号という分野別番号で管理された個人情報でも、流出すると、詐欺やなりすまし犯罪などへの悪用が懸念されるからだ。ましてや、同じ番号を税や社会保障など幅広い用途で使いまわすマイナンバーでは、その危険度は計り知れない。

IT全盛時代の今日、私たちは、ハッカー対策などからパスワードを頻繁に変えるように求められる。ところが、マイナンバー制で、私たちは一生涯同じ個人番号(パスワード)を幅広い官民事務に使うように求められる。人生80年超の時代である。明らかに時代に逆行し、いかに危険な愚策であるか、子供でもわかる。

このままでは、日本社会は、アメリカなどのように共通番号を悪用した「なりすまし犯罪者天国化」するのは避けられまい。ネット取引全盛時代にマッチしない危ないマイナンバーの導入をゆるせば、犯罪ツール化するのは時間の問題であろう。

日本年金機構の基礎年金番号などの125万人を超える情報流出は、確かに重大な問題である。ただ、基礎年金番号のような分野別番号は、他の用途で使うことはない。漏えいが起きても番号変更などの対策が可能だ。それに、基礎年金番号を扱うのは本人と年金機構だけであり、「民―官」間で完結する。

これに対して、共通番号制では、民間に勤務する者は勤務先(事業者)に自分の個人番号/マイナンバーを伝えることになっている。ということは、マイナンバーは「民―民―官」で流通することになる。加えて、マイナンバーは、公開され、第三者が容易に番号を知ることができる。また、税や社会保障の用途全般に使いまわしされることから、マイナンバーは漏れたら、基礎年金番号などとはくらべものにならないくらい危険だ。

わが国には、法人企業が421万社あり、そのうち90%弱の約366万社が小規模法人である。個人事業者は約243万者である。こうした小規模企業がすべて従業員かから取得したマイナンバーを適正に管理できるとは期待できない。むしろ、ほとんどダダ漏れになると覚悟した方がよい。

「今が商機」とみて、IT企業は「マイナバー対応ソフト」などを大々的に売り出している。だが、こうしたソフトを購入し、番号の適正な取扱や管理にカネ、テマ・ヒマをかけられる企業の数は限られる。多くの小規模企業は、毎日の営業で手一杯である。事業者が倒産したら、どうだとうか。保管する従業員などのマイナンバーをきちんと廃棄する保証はない。垂れ流しになる危険の方が高い。このように、身近なところで、マイナンバーや番号付き個人情報がダダ漏れになる危険があるわけだ。

マイナンバーは、税や社会保障など幅広い用途に個人情報を使いまわすための「マスターキー」である。漏れたら、ただ事では済まない。とはいっても、マイナンバーを変更するとなったら、官民あらゆるところに番号の変更を通知する必要が出てくる。

日本年金機構など官あるいは半官の機関は、情報流出問題が起きればいずれはそれを公表するから、まだましなわけだ。これが、マイナンバーが導入され、民間企業がマイナンバー付き個人情報を流出させたら、隠したり、公表しなかったり、何でも考えられる。それを第三者機関である特定個人情報保護委員会が適正に監視できるとは考えられない。仮に、すべての違法取扱を的確に監視するとしたら、何万人もの職員が必要になる。わが国はマイナンバーが付けられる1億2千万人を超える人口を擁している事実を忘れてはならない。

民官企業(事業者)は、フルタイムの従業員などに対し、所得税の年末調整をするための、本人だけでなくその家族全員のマイナンバーを記載した「扶養控除等申告書」の提出も求めることになっている。

この手続は、従業員数人の企業でも、大企業でも同じだ。明らかに危なそうな企業に勤める人は、自分の個人番号/マイナンバーだけではなく、家族の個人番号の悪用、流出など行く末を案じるのは当り前である。

人生80年超の時代に、同じマイナンバーを生涯にわたり幅広く使えという政策である。自分の勤め先に提出した扶養配偶者や子どものマイナバー/個人番号の行く末を心配するのは親として当り前の心情だ。

アメリカのように、年末調整がなく、全員確定申告して各種人的控除をうける国では、従業員は、雇用主に自分の共通番号(SSN)だけを提出すればよい。あとは、還付申告時に扶養している家族の共通番号を課税庁に直接提出することでよい。つまり、還付申告書に、該当者の共通番号(SSN)を記載して提出することでよい。

こうした例に見習って、仮にマイナンバーを税務の用途に使うというのであれば、わが国特有の年末調整の廃止および雇用主への扶養控除等申告書の提出を廃止する必要がある。(あるいは、最低でも、雇用主に提出する扶養控除等申告書には、扶養家族のマイナンバーを記載させないようにする必要がある。この場合、課税庁は、氏名や住所、生年月日、性別があれば、付番機関(J-ris)へ直接コンタクトして、該当者のマイナンバーを取得できるはずだ。)

いずれにしろ、事業者に必要以上の数のマイナンバーを保有させないようにしないといけない。でないと、マイナンバーの適正管理ができない膨大な数の企業からマイナンバーがダダ漏れになるのは避けられない。

最近の論調をみていると、日本年金機構の大量の年金情報流出が大きく取り上げられたことから、官ないし半官の機関のデータセキュリティを強化すれば、マイナンバーを導入しても大丈夫といった方向に動いているような気がする。しかし、これは、マイナンバー導入の呼び水となる矮小化された議論、あるいは年金機構事件の“危険な使われ方”ではないのか。膨大な数の「民間企業のマイナンバー対応不能」問題隠しにつなげないように配慮する必要がある。マイナンバーに反対する市民団体なども注意を要する。

やはり、最もマイナンバー情報の流出源の中核は、従業員やその家族、さらには顧客の個人番号/マイナンバーを取扱う「民間の小規模事業者や個人事業者」である。なぜならば、役人が机上で構想したマイナンバーは、毎日の生業に頑張っている人たちが容易に取り扱える代物ではないからだ。

もちろん、大企業であっても、ハッカー攻撃で、蓄積する大量の特定個人情報を抜き取られる危険性にさらされている。これは、日本年金機構のケースをみれば、よくわかる。

政府はマイナンバーの予定どおりの実施にかたくなである。だが、今回の年金情報大量流出事件を他山の石として、無謀な共通番号/マイナンバー導入は白紙撤回すべきである。

民主党など共通番号に賛成してきた野党も、今回の事件を想定外と釈明するだけでは済まされない。マイナンバー拡大利用法案の取り下げ、番号通知やネット時代に脆弱なマイナンバーの利用中止に向けて直ちに行動すべきである。

憲法13条を護り、プライバシーを大事にし、安全、安心な社会をめざそうではないか。

PIJ運営委員会決議

2015年6月5日