2023/11/12

どう克服する多言語での税務支援とデジタルデバイド

現在、先進各国は、移民を積極的に受け入れ、人口減対策/国内労働者や消費者の拡大に必死である。資質の高い移民の奪い合いである。わが国の人口は、全都道府県で減少、外国人299万人が下支えし、人口減を食い止めている。

アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは、増加する移民の自発的納税協力を仰ぐことが至近の重い課題だ。多言語での税務支援制度の整備、税務支援サービスの拡充に必死である。また、ドイツでは、税理士会が、移民の増加に伴い、国内での自発的納税協力を促進に積極的だ。移民の出身国の税理士会と相互協定を結び「外国人税務専門職の認証」をし、移民の対する母国「語での税務支援サービスの提供態勢を整えてきている。

ところが、わが国はどうだろう?税務専門職団体や納税者団体は、「納税者の権利」を叫ぶお祭り騒ぎは大好きである。しかし、外国出身の納税者へのわが国での多言語税務相談、申告納税サービス、税務コンプライアンスをどうするかへの意識は希薄である。島国根性丸出し、「外来者は、日本語学べ! 日本文化を学べ!」の大合唱。国粋主義に近い発想から解脱(げだつ)できないでいる。

国税庁も、税務行政の国内でのグローバル化には沈黙し、多言語税務サービスのへの認識があまりにも低い。この面で、先進7加国(G7)では、完全に劣等生であろう。

多言語での税務支援制度の整備は待ったなしである。税理士会をはじめとした税務専門職団体は真摯に計画を進めてはどうか?自分らでできないなら、税理士法を改正し、税務相談と税務書類の作成業務を有償独占化すべきだ。そして、外国語でお助けができる市民団体/納税者団体による無償の税務支援の扉を大きく開くべきである。政府規制、税務の無償独占にあぐらをかいていると、この国の申告納税制度自体が、世界の笑いもの、絶滅危惧種になるのではいか?

アメリカの課税庁(IRS/内国歳入庁)は、納税者権利憲章を出し、「納税者が主役」の税務行政を進める旨をアナウンスしている。この納税者権利憲章に沿い、納税者からの苦情に積極的に対応している。IRS内に、納税者からの苦情に対応するために独立した「納税者権利擁護官(Taxpayer Advocate)」という組織を設け、納税者権利擁護官サービス(TAS=Taxpayer Advocate Service)を展開している。TASは、全米に支部を置き、2,200〜300人のスタッフがいる。また、おおよそ170の言語で税務支援できる態勢を整えている。

さらに、TASは、全米の法科大学院やボランティアの協力を得て開設されている低所得納税者相談所(LITC=Low Income Tax Clinic)とのタイアップを強めている。TASは、LITCとコラボし、無償またはほぼ無償の税務相談や税務代理のサービスを多言語で提供している。このほかにも、ボランティア所得税援助(VITA=Volunteer Income Tax Assistance)ブログラム、高齢者向け税務相談(TCE=Tax Counseling for Elderly)プログラムなど、民間ボランティアの参加を得たさまざまな税務支援サービスがある。

わが国はどうだろうか?税務専門職界は「業務は無償独占で、俺たち以外は他人の税務にタッチするのは違法だ。やるならお縄頂戴でやれ!」のスタンスだ。財務・国税当局はどうだろうか?昨年、非税理士等による税務相談停止命令制度をつくった。税務専門職を当局に手なずける策を講じ、暗に税務専門職に当局のお手伝いさんに徹するように求めた、といえる。税理士以外の税務申告を許す「臨税」も消失傾向にある。

国税庁は、納税者からの苦情に対応しようということで、全国の国税局などに「納税者支援調整官」を置いている。アメリカの納税者権利擁護官サービス(TAS)をまねたのかも知れない。だが、スタッフは全国で73人程度。まさに「名ばかり対応」である。

本来、納税者支援調整官への苦情は「多言語」でできるようにすべきだ。だが、国税に、そんな機運はまったくない。税務専門職団体はもちろんのこと、市民団体・納税者団体にも「日本語以外の納税者サービスの必要性」の認識は完全に欠如している。

納税者支援調整官は、財務省組織規則によっている。言いかえると、法律によっているわけでない。また、サービスの内容についても内部の事務運営指針、つまり、いわゆる「秘密通達」で定める。情報公開法を使い開示を求めないと入手できない。納税者支援調整官は、独立性の強い「調整」ができる存在なら、独自のホームページ(HP)を持つべきだ。しかし、「独自のHPなし、ウエブ対応なし。年次報告書なし。」である。まさに、デジタル化の国策に背を向ける「幽霊組織」に近い。

こんな税務行政をゆるしている政治や税務専門職団体のレベルが問われる。民主政体を取る先進各国が採る国際基準からは程遠い。「納税者は権利主体」というのが流れだ。

租税教育??納税者の権利が保障されていないところで租税教育をしたら、納税者の義務一辺倒の教育になるのではないか?そんな租税教育はご免だ。この国は、専制国家、権威主義国家ではないはずだ。

税制のデザインにあたっては、少なくとも「公平(fairness)、簡素(simplicity)、効率(efficiency)」の3原則を尊重しないといけない、とされる。これらの原則のうち、申告納税を基本とする税金について納税者や関与税務専門職の税務コンプライアンス負担(納税協力費)を適正化するには、とりわけ「簡素」がキーポイントになる。

インボイス制度での激変対応などを見ればわかるように、税制「簡素」の理念はすっとんでしまっている。税務専門職ですら追いつけない。政務が多忙で、研修も受けられず、自分の税務すらよくわからなくなる?そんな税理士兼業の財務副大臣も出てくる。彼の言い訳が本当なら、税制・税務行政の簡素化は本当に大事な政治課題であると認識しないといけない。超多忙な副大臣にも税制・税務行政が手に取るように分かるようにするには「財務省・課税庁の文化」を変える必要があるのではないか?

「納税者権利憲章をつくれば、税務行政が納税者本位になる!」 これは、本当かどうかは別として、心地の良いキャッチである。だが、「課税庁の文化を変えない(Changing tax authority’s culture)」と、課税庁は、お客様ファーストのサービスを提供する組織に生まれ変われない。アメリカでも、イギリスでも言われていることである。

わが国の税理士会、税務専門職自身が「課税庁のお手伝いさん」では、「課税庁の文化」を変えられないのではないか?納税者の権利を云々するなら、税理士会が「課税庁の文化」を変えるフロントランナーにならないといけない。心地の良いキャッチで逃げ合うのはもう止めにしよう。

税理士界を含め、幅広い納税者/市民がスクラムを組み、租税行政庁に対して納税者権利憲章を出すように求めなければならない。

かつて、わが国でも政権交代で、一度は納税者権利憲章成立目前にまでこぎつけた。しかし、当時の民主党(旧)幹部の変身、財政当局への迎合で、頓挫した。彼らは政権から降り、自公政権に引き継がせたものは何か?それは、昨今トラブル続きの、データ権威主義国家つくり用ツールである国民総背番号制(マイナンバー制)という“負の遺産”だけだ。

電子政府・電子自治体の流れが日々加速している。行政サービスは、「紙/文書が原則」から、「デジタル(電子)が原則」に180度転換する方向である。こうしたデジタル化の流れは、グローバルなものである。わが国だけが抵抗してもストップできない。

こうした流れもあり、納税者が求める支援の内容は、紙/文書からデジタルに大きく変わってきている。もちろん、デジタル化について行けない人のために、“紙/文書の例外”は、憲法25条の生存権の一環として保障されないといけない。

だが、納税者がデジタル支援を求めているのに、それに対応できない税務専門職が生き長らえるスパンは短いのではないか。税務専門職は、デジタルデバイド(情報技術格差)を権利として主張し、抵抗勢力となるのを自重しないといけない。率先してリスキリング(学び直し)に精進した方がよい。

これは、納税者権利憲章をつくりでも同じだ。「紙/文書が原則」という古典的なドグマを引きずった形で憲章を仕上げても、内容は陳腐化しており、すでに「古典」である。納税者権利憲章をつくるとしても、税務のデジタル化の流れを織り込んだものでないといけない。ゾンビ化した憲章つくっても、国民・納税者にはご利益は限られるからだ。

もうすぐ「デジタルネイティブ」、「スマホネイティブ」の世代が税界にも大量に押し寄せる。税務専門職界は、彼らを迎え入れるためにも「老害の会」であってはならない。「老害の会」を引きずっても、全滅はしないにしても、大半は生き残れないのではないか。

「どう克服する多言語での税務支援とデジタルデバイド!」 この国の避けては通れない重い課題の1つである。