2010/10/29

イギリス国民IDカード制廃止法案の審議状況報告

イギリスは、一旦前政権が導入した国民IDカード制を、自由権侵害装置であることを理由に、政権交代を機に、廃止を決定したことについては、すでに紹介した。

イギリスで2010(平成22)年5月に誕生した新(保守党・自民党)連立政権(Lib-Con Coalition Government)は、自民党の政権公約(マニフェスト)および連立政権協定にしたがい、「国家が必要以上に国民の個人情報を収集しない方針」を打ち出した。そして、前労働党政権下で導入した「国民IDカード制」を恒常的な人権侵害装置であるとして廃止を決定した。

新連立政権のメイ内務相は、5月27日に「IDカード制廃止100日プラン」を公表した。(実際には、年末までかかる。)

イギリスでは、内閣が提出する法案は、議会上院における議会開会式で行なわれる「女王の演説(Queen’s Speech)」のなかで明らかにされる。一般国民は、この演説を通じて政府がどのような法案を準備しているか知ることができる。

新政権誕生後の5月25日に開催された議会の女王の演説では、内務省が、「IDカード制廃止関連法案(政府立法案)」を準備していることが明らかにされた。

国民IDカード廃止関連法案(national ID card abolition bill)は、(1)背番号(NIRN/国民ID登録番号)及び各人から強制収集した指紋その他の生体認証情報を管理する登録台帳の破棄、(2)背番号等を格納するIDカードの廃止、(3)政府第三者機関(NISC/国民ID制コミッショナー)の廃止などを骨子とする。

この法案は,わが国の「住基ネット廃止法案」に相当する。

イギリス連立政権のニック・クレッグ(Nick Clegg)副首相は、国民IDカード制廃止に関して、マスコミのインタビューに応えて、次にように述べている。

「このムダで、官僚発想的で、人権侵害的なIDカード制は、これまでの政府の害悪のすべてを象徴するような存在であります。早急にこのIDカード制度を廃止することにより、新政府は、閣僚の身勝手な計画によって市民の自由を犠牲にするようなことはない旨、を明確にするものであります。」

「IDカード制を廃止し、国家ID登録台帳(NIR)を廃棄することは、監視国家体制(surveillance state)を解体するための重要な一歩であります。IDカードは氷山の一角です。イギリス人が勝ち取ってきた自由を回復するための一連の急進的な改革のスタートであります。」

イギリスは、“本会議(読会)中心主義”をとっている。以前はわが国も、イギリス議会と同様に“本会議(読会)中心主義”をとっていた。戦後は、アメリカ連邦議会と同じく“委員会中心主義”をとっている。したがって、委員会審査を中心としているわが国と異なり、イギリス議会で法案は、本会議(読会)で審議する。ほとんどの法案は政府提出法案。イギリスの場合、法案には、イギリス議会下院先議のものと、上院先議のものがある。国民IDカード廃止法案は、下院先議法案。

「国民IDカード廃止法案」は、2010年5月26日に下院に提出。2010年9月15日にイギリス議会下院を通過。2010年10月5日に上院に上程された。10月末現在、議会上院において審議中で、今年中に議会を通過し、女王の裁可を得て発効する。

国民IDカード制は現在停止中だが、法案成立後直ちにシステムはすべて廃棄される。

一方、わが国はどうだろう。・・・・・民主党は、政権奪取前に、何度も住基ネット廃止法案を提出、政権奪取後は、住基ネット廃止どころか、共通番号、国民IDカード制の導入を言い出すわが国の民主党政権って何なんだろう?? ・・・・すでに住基ネットを基盤とする住民票コードを格納した住基カードがある。これが、イギリスでいう国民IDカード制に相当する。

要するに、わが国にはすでに国民ID制があるわけだ。・・・・・にもかかわらず、新たに国民ID〔カード〕制を立ち上げるという政府。・・・・完全に、産官学共同で画策したムダな公共事業(IT関連公共事業)だろうに。

住基ネットは、自治体共管の仕組み。国の役人は、これを、自治体から取り上げ、国の仕組みにする。カードも自治体からの任意取得から、国が強制交付するかたちにする。・・・こんな魂胆なのだろう。これでは、「地方主権確立の公約」は吹っ飛んでしまうだろうに。

事業仕分けをすすめる一方で、こんなムダで自治体を無視した国民・住民の人格権を公有化する憲法違反の事業を画策する。

「国民が主役」とか言っていた政党が、政権奪取後は、完全に「役人のしもべ」に変身している証だ・・・・完全にブレまくっている。要は、政治主導のキャパシティがないということだろう・・・・。だが、少しはイギリスを見習って欲しいところだ。

Big Brother