2010/07/16

イギリス新連立政権の監視カメラ規制策

PIJ監視カメラ対策立法プロジェクトチーム(PT)

イギリスの保守党&自由民主党との新連立政権は、監視国家体制をすすめた労働党政権下で蹂躙された「国民の人権回復のための関連3法案」を議会で審議中である。この件については、すでにこのブログでふれた。

人権回復3法案は、連立政権のパートナーである自由民主党(LDP)【保守勢力である日本の自民党とは異なり、イギリスのLDPは超革新政党】の政権公約(マニフェスト)に基づいて議会に上程されたものである。人権回復3法案のうちの一つ「自由(抜本廃止)法案(Freedom《Great Repeal》Bill)」には、「監視カメラの規制(Regulation of CCTV)」が盛り込まれている。それでは、新政権は、どういった監視カメラ規制を目指しているのであろうか?

イギリスの自由民主党(LDP)は、2009年11月に(1)自由法案の全文および(2)自由法案逐条解説を公表している。(2)自由法案逐条解説(第7)で、監視カメラ規制の方向性を示しており、参考となる。以下に、仮訳して紹介する。

 《第7. 監視カメラ規制》

イギリスは、世界で最も監視された社会になっている。イギリスは、世界の総人口の1%以下を占めるだけなのに、地球上の監視カメラ総数の5分の1がこの国に設置されている。労働党が構築した全体主義国家(Big Brother State)においては、監視カメラはあらゆる場所に行き渡っている。イギリスには、400万台を超える監視カメラが設置されている。これは、人口あたり14人に1台、また、各人は、毎日、300台を超える監視カメラに撮影されている勘定になる。1990年代に、内務省は、犯罪対策費の78%を監視カメラの設置に費やし、過去10年間で5億ボンドを越える公金を監視インフラの構築へ投資し続けてきた。

私どもは、監視カメラは万能薬でないと考えている。監視カメラは、スピード違反のドライバーを捕まえるためなどにも使われている。また、駐車場において、窃盗犯罪を防止するために使われている。にもかかわらず、犯罪防止のため、あるいは、被疑者を法廷で裁くための、監視カメラが確実に役立っているとの証拠はほとんどない。内務省の研究では、次のように結論づけている。「監視カメラ・スキームは、一般的に見て犯罪抑止という面ではほとんど効果がない」と。また、監視カメラで収集した多くの証拠が、裁判所では不採用となっている。にもかかわらず、監視カメラはこの国のいたる所に広く普及してきており、その技術は日ごとの進歩してきている。カメラはいたる所に数を増やしてきており、例えば、自動ナンバープレート認識(ANPR=Automatic Number Plate Recognition)ソフトウエアを組み込んだ監視カメラ【いわゆる、我が国のNシステム】が出現している。監視カメラが本質的に規制を受けていないことに対して、次第に疑いの目が強くなっている。

自民党は、人々のあらゆる動きが記録される監視社会へ向かって夢中遊行させられるようになる前に、監視カメラの利用、その全面的な規制に向けて公に議論されるべきである、と考える。最近、議会上院が出した報告書は、次のように結論づけている。イギリスは、監視カメラの利用において「世界をリードしている」。しかし、その利用について、「ほとんど制限がない」。つまり、その利用について、明確な法的規制がない、と。法的規制に必要性について注目されているのは、唯一、自動ナンバープレート認識(ANPR)についてだけである。まさに、今、行動する時である。自民党は、プライバシー保護のために、監視カメラの利用と規制について【内閣の求めで女王が任命する】王立調査委員会(Royal Commission)に緊急に諮問して答申を求めたいと考える。ケンブリッジ市議会のように、多くの地方議会は、監視カメラの利用に関する運用基準の作成において優れた実績をあげている。このことは、王立調査委員会が、調査を開始し、法的な強制力のある運用基準の検討をする適切な場所といえる。